卒後研修会セミナー

第8回

日時:平成11年5月8日(土)午後7時
場所:東北大学歯学部病院第二会議室
講師:東北大学歯学部口腔外科学第一講座   川村 仁 先生(3回生)
演題名:“歯科医療で果たすべき歯科口腔外科(口腔顎顔面外科)の役割”
(今だからこそ見直さなければならない歯科医療)

<抄録>
 最近、標榜診療科名として歯科口腔外科が認められました(平成8年9月)。しかし、この標榜科名が認められるに当たって、医師側の代表と歯科医師側の代表の議論をみたとき、歯科医療に対する深刻な誤解の存在を感じます。
 “歯科医療機関は外来が中心である”“歯科医療は外来診療が大半である”という歯科医療の特性のみが注目され、いわゆる歯科における入院(病院)診療が公正な議論の場に上がらず、口腔外科治療を“お医者さんごっこ”と誹謗中傷する方も少なくありません。
 歯科口腔外科の標榜科名を認めるに当たっての医師側の代表が、これまでの口腔外科診療について、“今までは病院の中だけの医師と歯科医師との協力関係でこられたが、歯科診療所まで歯科口腔外科を標榜できるようになると、ある程度領域を決めておかないと現場において問題が起きるのではないか”と笑えない意見を述べております。
 患者さんに適切な医療を提供するのに、医科も歯科も関係ないことであり、結果的に患者さんがどのように健康で幸福になるかのために、医療全体で協力することは当たり前であるにも関わらず、歯科は医科と協力することなく適当に医療行為をしてしまうと疑っているのです。歯科医療と医科医療とを別物のの医療と考え、歯科診療行為を危惧しているのです。
 歯科医療の特性を、私も認めます。しかし、医療行為は患者さんの健康と幸福のためであり、歯科と医科に差は存在しないはずです。虫歯や歯周治療、補綴治療に追いまくられ(歯科医師数の絶対的不足の時代があります)、歯科診療の特性に甘んじてきたが故に生じている、医科と歯科の溝ではないでしょうか。同じ医療人の間での溝は社会への影響が計り知れないと考えます。
 今日、医師、歯科医師余りが叫ばれ、医師、歯科医師需給問題が議論されております。医師、歯科医師とも、医療への新患参入削減のため、学生数の削滅が実施されてきました。それでも、不十分とさらなる削減が厚生省より文部省へ申し入れられています。
 しかし、医科医療の担うべき仕事についての議論はきわめてお粗末で、歯科医療の特性に目を奪われるだけで、歯科医師の需給を考える条件はお粗末そのものといわざるを得ません。検討委員会においても“歯科医師の需給は、現状で想定できる条件で推計したものであり、歯科医療を取り巻く社会情勢の変化等に応じ、将来的に見直す必要があることを付言する”と認めております。
 その一方で、歯科医師の臨床研修をとりあげ歯科医師の資質向上をはかる必要があるとしております。しかし、ここでの議論も、
○歯科医師は一般の病院ポストが極めて少ないことから、供給が過剰となると、勤務歯科医として十分な修練をつむことなしに早期に開業せざるを得なくなる。技術的に未熟な開業歯科医が多く輩出されると、診療内容に根ざす適切な競争による資質向上を望むことは不可能な状況に至るおそれがある。
○患者数の減少に伴い、良質な歯科医療提供に関わらない面でのサービス競争を引き起こすおそれがある。極端に患者数が減少した歯科参療所においては一定の診療収入を確保するため、過剰診療を惹起する危険性も否定できない。
 また、歯科医療費及び国民負担の増加に影響することが懸念される。
と現状を肯定した議論だけで、全く進歩が見られません。
 今、研修しなければならないのは、口腔顎顔面領域の疾患に対して、医療人として歯科医が他領域の医療人と協力し何を担う必要があるのかであります。医療の提供は人間の健康と幸福のために細分化した領域で何をやっていけるかではなく、細分化された領域を統合し、そのための協力関係を確かなものにする事と考えます。その中で担わなければならない仕事をみいだし、それを具現できる知識と技術を身につけることは、医療人共通の義務と考えます。その中で、歯科医はあくまでも口腔顎顔面領域を得意としているにすぎません。そして、今までの歯科医療の特性のままでは歯科医師は過剰であるといわれているのです。医師過剰もからんで、口腔顎顔面領域の対処を得意としている歯科医に、医科からよけいな勉強はいらないとまでいわれているような気がしてなりません。
 日常の仕事に忙しいとは思いますが、医療全体の中で、歯科医の知識と技術、歯科医師数で何ができるのか、考えてみることも必要なのではないでしょうか。一次医療、二次医療、三次医療のごとく仕事を分担し、その連携を考えることで高質の医療提供を行う見直しが進められています。もちろんこのような垂直的構想だけでなく、水平的にも各領域間の連携をはかり、地域における医療の仕組みを考える時代になっております。歯科は特別であると安心していると、医療の仲間から切り捨てられ、社会的状況は悪化するだけではないでしょうか。
 口腔外科はみなさん仲間であり、みなさんの仕事の真のサポーターであることを信じてください。
 もちろん、講演は、症例を呈示しながら具体的に考えていく予定です。

<概要>
 歯科医師過剰問題を考える時、これからの歯科医師に求められることは何か?果たして現在のまま、患者の訴えを解決するだけで国民は満足するのだろうか?安穏としていられない現状があり、将来どのような形態で歯科医療が改編されていくのか。以上の点から、先生自身の治療から引き出せるビジョンを含めて提言していただきました。口腔診療から歯科医療、一口腔単位治療から全人的治療、cureからcareこの3つの変革がこれから歯科医師に求められて来ると思います。
 臨床例として、顎関節頭骨折(以前は整腹の必要がないとされていた)、癌病巣を難治性の歯周病として紹介されてきた例、ほんの小さな潰瘍性びらんが口腔底癌であった例、いわゆるバードフェイスの患者さんと無呼吸症候群(突然死との関係がとりざたされている)との関係、V級の咬合状態にある患者を顎骨切除によって咬合を作った時に顎関節頭の関節窩内での位置はどのように変化するか、顎関節(内)症と咬合との関係などの多方面のわたったお話をしていただきました。